社会人になって三年目の春、俺は思い切ってレクサスを買った。

もともと車が好きだったわけじゃない。けれど、先輩に「高級車に乗れば人生が変わる」と言われたのがきっかけだった。確かに、俺の年収からすれば分不相応な買い物だったかもしれない。それでも、何かを変えたかったのだ。

納車された日は、何度も車体を撫でた。深みのある黒のボディ、滑らかなフォルム。ドアを開け、シートに腰を沈める。上質なレザーの香りに包まれた瞬間、胸が高鳴った。

それからというもの、俺は週末になるとレクサスでドライブに出かけた。とくに目的もなく、ただハンドルを握って走るだけ。それだけで気分が良かった。

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カフェの駐車場で

カフェ 駐車場

ある日、カフェの駐車場で車を降りたとき、声をかけられた。

「すごい車ですね!」

振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。黒髪を肩口で揺らしながら、目を輝かせて俺の車を見ている。

「レクサスって、乗り心地いいんですか?」

「ええ、静かで快適ですよ」

そんな何気ない会話が始まりだった。

彼女の名前は紗季。カフェの常連で、俺と同じく休日にはよく一人でここを訪れるという。車好きというわけではなかったが、高級車には興味があったらしい。

「運転してる姿、見てみたいな」

そんなことを言われて、俺は気づけば「じゃあ、一緒にドライブしますか?」と誘っていた。

それから俺たちは、週末になると一緒に出かけるようになった。最初はぎこちなかった会話も、次第に弾むようになり、気づけば彼女の笑顔を見るのが楽しみになっていた。

海沿いの道で

ある夜、海沿いの道を走りながら、彼女がぽつりと呟いた。

「ねえ、車が好きな人って、きっと丁寧な性格なんだと思う」

「なんで?」

「だって、こんなに綺麗に乗ってるんだもん。ちゃんと大切にしてるの、伝わるよ」

不意に、心が温かくなった。

「…ありがとう」

レクサスを買ったのは、ただの気まぐれだった。けれど、こうして誰かと一緒にいる時間が生まれるなんて思ってもみなかった。

ある日、彼女がそっと俺の手を握った。

「ねえ、これからも一緒にドライブしよう?」

エンジンの鼓動と重なるように、俺の胸も高鳴った。

「もちろん」

レクサスを手に入れたことで、俺の人生は少しだけ変わった。何より、彼女と出会えたことが、その証だった。そろそろ彼女に乗車したい。